【社説】打感と音の単位制定に乾杯
【社説】
人が痛みを感じる度合いを数値で表す単位が制定されたのが1998年のこと。
「鼻毛を1本抜いた時に感じる痛みを1ハナゲ」こう定められた時、ふーるぷーる編集部員たちは急いでビリヤード場に出かけた。
私がまだ新入り間もない頃で、諸先輩方の後ろを付いて行くだけだったが、ビギナーがフルショットをした時にやりがちな右手をテーブルに衝突させてしまった時の痛みが33ハナゲであると数値化できた瞬間は、今でも忘れられない良き思い出だ。
しかしながら、その後のビリヤードは数値化を拒むかのように33ハナゲさえも浸透せずに時は流れてしまった。
気がつけばあれから20年。
駆け出しで右も左もわからなかった私が、今では副編集長という肩書を拝戴し、立派な椅子に座らせていただいている。
だが、私の20年間において、単位について忘れたことなど一度もない。
「めちゃめちゃ重い」
そう人が言うたびに「その重さを表す数値は幾らなのか?」と心の中で問いかけた。
そう人が言うたびに「何をもって異常なのか?」と悶絶した日々。
「このキュー、打感がサイコーなんです」
「うんうん。音もすごく気持ちいいね」
こんな会話を聞くと、「サイコー」や「気持ちいい音」の定義を尋ねたくなってしまう。
この感覚に頼り切った、主観だけで決める時代はいつ終わることができるのだろうか。
もしかすると、私の20年は何も生み出せなかったのではないか?
疑問形にすること自体が甘えというもの。
悲しくも現実として受け止めねばらないのだろう。
そんな矢先に朗報が舞い込んだ。
ビリヤードの打感と音という感覚でしか得られない要素がついに数値化されたというのだ。
単位はダカン(Dk)とオトン(Otn)。
これらは1998年に『ハナゲ』が制定されたのと同時期に誕生した快楽、快感の度合いを示す『アハン』と共通項を持っている。
科学的な根拠に基づいたこの単位は、ビリヤード界においても間もなく浸透するに違いない。
まったく手入れのされていない、モッサモサのタップがかろうじて付いている状態のハウスキューが0ダカンの0オトン。
MAXはそれぞれ100ダカンと100オトン。
タップが取れたコツがむき出し裸の状態は測定不可となる。
私の現在使用しているキューで試したところ、58ダカンと35オトンだった。
これを通うお店のマスター(名手)に撞いてもらったところ、ダカンこそ大きな差は出なかったが、オトンでは74と倍以上の数値が示された。
オトンは撞き手の技術に頼るところが大きく、特にスピートを上げた引き球の時に数字を伸ばすようだ。
これで私の人生の半分以上を悩ませてきた問題が解決した。
と、思ったらぬか喜びだった。測定器が市場に出回らないという。
何でも需要が足りず、商業ベースの生産が出来ないというではないか。
構わない。もう受け身の姿勢は終わったのだ。
同志よ、今こそ立ち上がれ。
マイキューの紹介をする時は、DkとOtnの数字を添えようではないか!
平成の終わりに執筆した記事を公開し損ねていて、今(令和7年)になって初出の原稿となった。
DkもOtnも主観で構わない。
「それなら『めっちゃいい』と変わりないのでは?」
という声も出てくるだろうが、それは違う。
まずは数値化することから始めよう。
「あの人のキューで50Dkなら、自分のは65Dkくらいかな?」
「今日借りたキューが70Otnだったら私のキューもそれ以上はある」
こうして数字で共有されることにより、少なくとも国内ではおよその基準が確立されることだろう。
こんな戯言を書いていると、蒐集家の方から「デザインを数値化出来ないのは片手落ち」という指摘が入るかもしれない。
大丈夫。用意している。
キューのデザインを測るのは「エモい」しかない。単位略号はEmoで決まり。
近い未来にこんな時代が訪れることだろう。
「新しいキューを買いました! 72Dk、48Otn、89Emoです!!」
本当にそんな時代が訪れるのだろうか? いや、訪れまい。


