2060年の記事を先読み
虚球新聞 2060年12月号
『平成時代』。
歴史の授業で習って読み方は誰もが知っていることだろう。
今からわずか40年と少し前の話だが、当時のビリヤードに関する文献を見ると、これがなかなか興味深い。
当時のビリヤードはナインボールやテンボール、そしてエイトボールなどが主流だった。
多くてもたった15個の的球しか使わないので、テーブル上はガラガラのスカスカ。
当然ながらマスワリというブレイクから最後まで取り切る技も頻出していたという。
ここ数年は『100ボール』が国際的に主流となっているが、飛距離をミリ単位で設定できるジャンプキューが主流となった今、もはやビギナークラスのゲームとなりつつある。
上級者の間では『120ボール』が流行の兆しを見せていて、それにともないボール(的球120個+手球)の新商品や120個対応のラックシートも好調に売り上げを伸ばしている。
さすがに手動でラックを組む人はいないが、ラックシートを取り除く百年の儀礼・儀式はやはり欠かせない。
また当時の文献を見ると、ブレイクも毎回スピードや当て前が違って配置もまちまちだった様子。
「同じ配置がないことがビリヤードの魅力です]
そんなユニークな楽しみ方があったらしい。
驚くことに、当時は自動車の運転も手動であった。
それはドアの開閉やエンジンの始動だけでなく、ハンドル操作やスピード調整も人間が行うというもの。
そのため交通事故と呼ばれる危険な出来事が頻繁に起こっていたというから想像しただけで恐ろしい話だ。
ヒューマンエラーはゼロ。これが当たり前ではない時代があったのだ。
話は戻ってビリヤード。
当時はまだAIを搭載したキューがなく、自分で狙ってボールを間違えたり、違う厚みに当てるなどのヒューマンエラーが存在していたという。
何ともストレスがたまりそうな話だが、ビリヤードは禅さながらのストイックなスポーツであったらしい。
今でもビリヤード場でAI機能を搭載していないキューを持参する高齢者を見かけることがあるだろう。
その老人たちは40年前のブームのカムバック組。
「なんやこれ? ボールめっちゃ多いやん!」
といった意味不明なリアクションが特徴だが、人生の先輩として温かく見守ってあげて欲しい。

※ビリヤードデイズが平成時代にアップした貴重な画像。的球が15個で1つの箱に収納されていた
その人たちはヒューマンエラーをビリヤードの醍醐味だと思っている方。
「100番ボールは4番と同じ色ですよ」
このように気長に優しく接してあげることを願ってやまない。