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Race To Eleven
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毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です


第103話 不穏な空気
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第六章 偽りのマスク
 第103話 不穏な空気


 京都の街を、盆地特有の蒸し暑い夏が通り過ぎていった。
 この夏は異様に暑く、それが長引いた。
 
 一番暑いさなかに堀川ビリヤードのエアコンが故障し、夕立の後のビリヤード台のコンディションは最悪のものだったが、そんな中でも佐倉たちの日常はこれといって相も変わらず、ビリヤードに明け暮れる日々が続いた。
 殺人的な暑さがようやく一段落したと思ったら、どこからか虫たちが鳴く声が聞こえ、そうこうしている間に紅葉の季節も近づいてくる。
 
 
 「よぉ!」
 龍プロは久しぶりに堀川ビリヤードのドアを開けた。
 「あれ? 誰もいないのか?」
 「ちょ、ちょっとォォ! 目の前に居るじゃないッスか!」
 そう答えたのはウッシーこと牛島だ。
 
 龍プロが店内を見渡すと、牛島が一人で練習をしており、マスターがカウンター越しに龍の方を伺っていた。
 「まいど、久しぶりやね」
 「ああ、近くまで来たもんで、ついでに寄ってみたのさ。…で、彼女たちは?」
 「やっぱり女子ッスか!? 女子狙いッスか?」
 「いや、そういう訳じゃ…アハハ」
 「今日はお嬢と佐倉さんは・・・アマチュアの公式戦に出かけていって留守ですわ」
 「公式戦に? そいつは感心だな。そうか、彼女たちも頑張ってるのか」
 「そこのソイツも一緒に行ったんだけどね、早々に負けちまって、帰ってきて一人で練習してるんですわ」
 「ああ、それでふて腐れてるって訳か…」
 「あのですね、ボクは別にふて腐れてなんてないですからね、いくら龍プロでも言っていいことと…」
 「ああ、悪かった。ちょっと見てやろうか?」
 「マジっすか? 憧れの龍プロに見てもらえるんっすか?」
 「ああ、どうせ誰もいないからな…」
 「龍プロって、見かけによらず口が悪いッスね」
 
 
 
 夜になって客たちが賑わってきた頃、佐倉たちが店に帰ってきた。
 「ハァー、疲れたァ~」
 「お疲れ様!」
 龍たちはカウンターの周りに腰掛けていた。待ちかねた様子だ。
 「どうだった?」
 「アタシは3位入賞。 それと南ちゃんはベスト16で終了」
 「へぇ~、お嬢はともかく、南ちゃんはまだ公式戦初挑戦で立派なもんだ」
 「緊張したァ~。 だってベスト16で真紀さんと当たるんだもの」
 「アタシだって南ちゃんに負けそうで必死だったわよ」
 
 こんな会話を耳にしながら、マスターも龍も二人の女子プレイヤーの成長ぶりを頼もしく感じる。
 「そういえば、今回の試合はミスキューが多かったわね…」
 「うんうん、ホントに」
 「関西でもそうか…」龍プロが意味深に言う。
 「えっ?」一同が不審に思い、龍の方を振り向いた。
 「東京でも問題になってるんだが…」龍はそう切り出した。
 
 
 龍の話しによると、関東では全般にタップ(ティップ)の品不足が続いているらしい。タップとは主に革製でキューの先に取り付けられる重要なパーツの一つだ。クルマで言えばタイヤに相当するこのパーツは、ビリヤードで手球をコントロールするために欠かせないもので、1個数百円から2千円程度の消耗品である。
 ところが最近は、どのビリヤード用品店でもタップの在庫が非常に少なく、定価の2~3倍で販売する業者も出てきたほどだ。それゆえ、プレイヤーはタップの消耗ギリギリまで使用していたり、比較的安価で性能の低いものまで使い出す始末で、それがプレイに影響しているのでは、というものだった。
 
 「だから、オレは全日本選手権の予定よりずいぶん早めに関西入りして、ティップがあれば確保しておこうって算段だったのさ。関東ほど顕著じゃなければ、まだどこかに在庫があるはずだからな」
 
 「それはある意味、正しい判断やね、龍プロ」マスターがそう言いながら大きな缶のケースを取り出してきた。
 「ホレ!」
 缶の蓋を開けたその中には、様々な種類のタップが多数収められていた。
 「おお、これは助かる!」
 龍プロは目を輝かせてタップの選定をする。
 「ま、ここの連中は物持ちが良いというか、一年ぐらいは平気で使ってるお客がほとんどやからね」
 「この状態がいつまで続くか・・・、それともう一つ、大きな問題。いや、問題と言っていいかはわからんが・・・」
 そう言って龍は次の話を切り出した。
 


  • 2014年5月 6日(火) 07:00 by 芦木 均

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